風を感じ、あなたは目を覚ました。
そこは、だだっぴろい草原の真ん中だった。
爽やかな風が吹いて丈の短い草たちを揺らし、眩しくはない太陽があなたを照らす。
夏、初夏の空に感覚が近かった。
青い空、雲が穏やかに流れている。
あなたは草原に大の字に寝転がり、仰向けになっていた。
緑の匂い。冷たい草の感触、心地よい気温と風の涼しさ。
その感覚は確かに現実に思えた。
突然夢のようにはっと目を覚ます。夢か現実の境は難しいが、はっきり感触や痛み、匂いや味もある。
記憶を揺り起こそうとするなら、ベッドに入って寝たところまでは記憶にあって構わない。この場所自体には記憶がなく、どこか懐かしい感覚がするとわかる。
服装はPCの望むものでよい。持ち物はなし。
ここは水星である。水星の自転周期は56日、1日の長さを地球基準で換算すると176日。そのため、基本的に時間の流れはとても遅いことになる。公転周期(1年)は88日。
あなたが身体を起こすと、一層強く風が吹いた。
それはあなたを通りこして、どこかへと運ぶように、まっすぐ流れていく。
視線が自然にそちらへ向くと、視界いっぱいに広がる草原の中に
一軒の家がぽつん……と建っていた。
そして、その傍に小さな湖のようなものもあるようだ。
生活感は外側からでは計り知れない。
家はよくある木造のつくりをしていて、赤い三角屋根が特徴的だった。
ここはどこに歩いても、必ず赤い屋根のある家が見える場所に戻ってきてしまう。最終的に湖、家しか行く場所はない。
延々と歩くのであれば、時間の流れが空(景色)に現れないことに気づく。=時間の流れが遅いため
生物は一切いないわけではない。独自の生態系をもつ虫、小動物などは生息している。
また、その中にはイス人の精神の入ったカブトムシがいるかもしれない。
一見似てはいるが、地球上の生物とはかけ離れている。ただし、肉食はいない。
湖の傍へとやってくる。
そこには透き通った水面があった。
広さは外周歩いても数分ほどで回り切れるほどで、
柵などはなく、一歩足を踏み出せば落ちてしまいそうだ。
水面は透き通っているのに、不思議と底は見えない。
相当深いのかもしれなかった。
魚などの、魚影は見えない。
自然に出来たものにしてはあまりに綺麗すぎる、と思う。
魚がいないのも水の性質かもしれない。
水は無味無臭、海水ではない。
あなたは意を決して、またはうっかり、
その湖の中に入ってしまう。
どぼん、と水中に重い物を落とした時特有の音がして、
あなたの身体は落ちた。
一瞬視界が真っ暗になり、水音もなくなる。
息が出来なくなる。あなたは無意識にあがいた。
『帰るのはまだ早いよ』
そこで目を覚ます。
あなたは湖にほど近い草原の上に倒れていた。
風がそよと揺らす。身体は濡れてもいなかった。
ここに連れてきた目的を果たさぬ前に帰られては困るため、ただ入っただけでは戻されるようになっている。
呪文を唱えて入らなければ門の活性化状態にはならない。
また、この声はイスが設定したものだがシステム的なものであり、少年の声に聞こえる。
近づいてみると、ミニチュアのレトロハウスのようだった。
木造りの家は野ざらしの割に綺麗で、特に劣化している様子もない。
いくつか窓はあるが、カーテンがかかっていた。
そのため、中の様子も伺えなさそうだ。
外国製といっても違和感はない。
はじめて見たはずなのに、どこか懐かしい感じがした。
玄関らしき質素な木の扉にはインターホンはない。
ただ、ドアノブの下の鍵穴に鍵が刺さりっぱなしになっている。
この鍵はとれない。刺さったまま抜けない仕様になっている。窓は壊れない。この家全体に外部からの攻撃を吸収する保護の呪文がかけられている。
また、一周しても他の出入り口などはない。
ノブをひねると、鍵は開いたままのようだとわかる。
鈍い音がして、そのまま開いていく。
家の中はシンプルなワンルームで、中も質素な木造りの内装だった。
壁際にいくつか家具があり、生活は出来そうだが生活感はない。
室内は【家】【屋根裏】に分かれている。
手順を踏まないと進まないようになっているため、基本的には一本道だ。
また、この家は来客用であるために”人間の家”の様相が作られているが、本来の生活を前提で考えられていないのでちぐはぐであったりする。
度々イスによるアップデートはされているようだ。
扉が閉まり、背後でガチャリ、と音がした。
慌てて振り返っても、何もいない。
どうやら鍵がかけられたらしい。どうしてかはわからなかった。
改めて確認すると、この玄関には内鍵がないようだ。
正面を向けば、床には赤いじゅうたんが敷かれ、玄関のすぐ近くにはスリッパが一組並べて置いてある。
しかし玄関と室内の境のようなものはなく、おそらく土足であっても問題はなさそうだ。
生活感はないが、様々な小物や本などがたくさん置いてあり、 壁には世界地図や天体図がかかっている。
何となく、持ち主の教養が伝わるような気がした。
地球の情報や、地球に親しみやすいものを置いている。
しかし国籍等はばらばらなため、どこか統一感がない。準備したイスの趣味だろう。
窓にはカーテンがかかっている。
それは濃紺で、分厚い遮光性だった。
よく見るときらきらしている。銀箔がちりばめられているようだ。
そのカーテンをめくると、明るい青空が見える。
透き通った空に浮いた雲、揺れる草原……何も変わりはない。
ただ、家の窓から草原を覗くという感覚に不思議なノスタルジアを覚える。
ここでKPはカーテンをあけっぱなしにしておくのか聞いておくこと。
屋根裏から帰ってきた時に外が夜になっており、描写に関わるため。
郷愁を覚えるのは、人間の郷愁(望郷)に近い風景を見せているから。
窓に鍵がかかっている事はなさそうだが、あけようとしても、開かなかった。
内鍵はここにもない。
特に変哲もない高級そうなアンティーク机だ。
引き出しがいくつかある。
机上には大量の羊皮紙と羽ペン、インクが置いてあり、机が接している壁には旧そうな世界地図と天体図が貼ってあった。
この机にはどうしてか椅子がない。
かなり詳細に描かれている。
ここまで精巧なものも中々ないのではないだろうか?
見覚えのない星の名前がいくつも書かれている。
この世界地図には違和感がある。大陸の形が所々違うのだ。
しかし紙自体はとても古く、もしかしたら今の形になる前の世界の地図かもしれない。
これは探索者の住む地球の遥か未来の世界地図である。
古いのは、この世界においてはそれはさらに過去になるため。
天体図はイス基準のため、地球人よりもずっと正確である。これはほんの一部に過ぎない。
また、椅子は本棚のそばにある。
羊皮紙のほとんどが白紙だが、一枚何か書かれているものがある。
『赤 - 5 エ 12P』
羊皮紙の中に封筒が混ざっていた。
封はしまっていたものが開けられているようで、 糊付けが剥された跡がある。
中には一枚折られた羊皮紙が入っており、そこにはこうある。
『拝啓、』
そこで止まっていた。書きかけのようだ。
ほとんどが空だが、一つだけ何かが置いてある。
そこには一冊の本があった。
緑の背表紙で、さわると絨毯のような、高級そうな布の材質であることがわかる。
読んでみようとするなら、開くことは出来ないと気づく。
本の形をしたインテリアのようだ。
入手:緑の本
赤、青、緑の本を集めて棚に入れる必要がある。
今のところは放置したとしても問題はないが、気づかないようならKPの方で誘導を入れてもよいだろう。
そこはキッチンとは名ばかりの洗面台だけのような場所だ。
シンクはあるがコンロ等はない。
いくつかの棚には食器のようなものが一式置いてあり、全て木製だ。
冷蔵庫らしきものはあるが、冷えておらず食材等も一切ない。
棚の中、食器にまぎれて一冊の本が置いてあるのに気づく。
赤い背表紙の本で、さわるとつるつるしている。
コーティング加工されているらしい。
読んでみようとするなら、開くことは出来ないと気づく。
本の形をしたインテリアのようだ。
入手:赤い本
赤、青、緑の本を集めて棚に入れる必要がある。
今のところは放置しても問題ないが、気づかないようならKPの方で誘導やアイデアを入れてもよい。
キッチンも形ばかりで、まともに使うのは難しい。水は蛇口をひねれば出るし飲むことは可能。湖から引いているため、味や見た目は変わらない。
シンプルな木製のベッド。
ベッドメイクされた後、誰も触っていないかのようにぴしりとシーツと布団がかかっている。
ベッドヘッドには棚があり、扉がついている。
寝ることも出来るが、寝て起きても変わらぬ明るさである。地球での一日は確実に経過している。
下記の資料・本に関しては、もし興味があるなら卓中に実際に青空文庫を開いてもらって読んでもらうのもいいだろう。
棚の一つに、本が二冊入っていた。
『青い本』『小さな小説』だ。
入手:青い本
青い背表紙で、触るとざらざらしている。
読んでみようとするなら、開くことは出来ないと気づく。
本の形をしたインテリアのようだ。
短編集のようで、栞がはさまっている。
そこには、『郷愁』とあった。
作者は織田作之助(おださくのすけ)というらしい。
1913年~1947年。日本の小説家である。
終戦後太宰治、坂口安吾、石川淳らと共に無頼派、新戯作派と呼ばれ、「織田作(おださく)」の愛称で親しまれたようだ。
代表作に 『夫婦善哉』 『勧善懲悪』 がある。
庶民的な生活や、世俗、世相、人間を描いた作家である。
出だしはこう始まる。
夜の八時を過ぎると駅員が帰ってしまうので、改札口は真っ暗だ。
内容は10分もあれば読める。
簡単に要約するが、興味あるなら時間をとって青空文庫で検索してみてもいい。
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40時間寝ないで原稿を書き続けた作家の”新吉”の物語。
原稿を郵便局に持っていき、速達で原稿を無事出した後、帰りの電車に乗るあたりまでを描いた短編だ。
その道中出会った人々を思い、人に対する郷愁や憂いを感じ、
「人間」を知らずに「世相」をテーマに 原稿を書いていたことを後悔する、という内容。
最後の方にこんな文がある。
再び階段を登って行ったとき、新吉は人間への郷愁にしびれるようになっていた。
そして、「世相」などという言葉は、人間が人間を忘れるために作られた便利な言葉に過ぎないと思った。
なぜ人間を書こうともせずに、「世相」を書こうとしたのか、新吉ははげしい悔いを感じながら、しかしふと道が開けた明るい想いをゆすぶりながら、やがて帰りの電車に揺られていた。
この短編における新吉とは、この作者そのものの事であろう。
自分自身がテーマにしてきた「世相」に対する、一種の自己批判なのではないか。
彼は自分を顧みることで、自己の成長を高めたのだ。
……ということが読み取れる。
質素な木の本棚は、奥行きもなく肩幅程度の横幅だ。
シンプルなつくりで、4段ほどしかない。
各段、背表紙で色分けされており、上から黄色、青、緑、赤となっている。
それぞれの本の背表紙には管理番号のようなものが振られている。
適当に一冊手に取ってみるなら、読めない言語がびっしりと書かれていた。
他のもそうで、中には中国語、英語、フランス語など、
様々な見知った言語のものもある。
難しい専門書から、料理のレシピ本まで、ジャンルも一定していない。
傍には木製の椅子があり、それは机のものであるように思う。
椅子の上には一冊の本と、その上にアンティーク調のオイルランタンが置いてあった。
これだけは、使用された跡がある。
オイルランタンは別名ハリケーンランプとも呼ばれる。
船舶用や軍用品として使われてきた歴史があり、今はアウトドア用品としても愛されている。
大きく加圧式、非加圧式の2つのタイプがあり、ここにあるのは非加圧式である。
ブロンズカラーで持ち歩き出来るもののようだ。
以降、あなたはその知識を活用して、いつでも火をつけることができる。
ランタンは本を読む際、暗い部屋では読みづらかろうと善意で置かれたもの。
メルクリウスはラテン語で、英語でいうマーキュリーのことである。
ローマ神話では商業や旅人、錬金術の神として有名で、 ギリシャ神話のヘルメースとも同一されることがある。
また、『水星』の別名である。
本は主に天体の水星について記載されており、特に折り目がついている部分がある。
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水星はもっとも太陽に近く、自転が遅い分、公転が早い。
時速47キロで太陽の周囲を回るが、それは太陽系最大のスピードである。
このくらいのスピードで回らなければ、引力によって水星は太陽に引っ張られてしまうのだ。
反対に、自転は約56日かかるとされる。
これも太陽の引力の影響だ。
そのため、地球でいう1年は88日しかないのに、1日は176日もかかるのだ。
太陽の周りを二周しなければ、この星は次の夜明けを迎えられないのである。
★メモを読んでいるなら以下の判定
※『赤 - 5 エ』を探すという宣言があったなら、判定なしに見つけて構わない。
ふと、赤の段に目が入る。
その数字は先ほど見たものではないだろうか?
手にとり、12Pを開いてみる。
すると、何かが挟まっていたようで、するりと床に落ちる。
メモだった。
本はどうやらあなたの母国の国語辞典である。
※出身や母国語に合わせてよい
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郷愁 - きょうしゅう -
・他郷にあって故郷(ふるさと)を懐かしく思う気持ち。
・過去のものや遠い昔、失われたものにひかれる気持ち。
※故郷を懐かしく思うだけなら、望郷が適切である。
この言葉には、過去に失われたもの、感情、想い出、歩みを懐かしむことも含まれる。
もう手に入らないもの、脳の中にだけあるものに。
手書きのようだが、まるで教科書のように丁寧で正確な文字である。
これはイス人のメモである。
時間を超越した彼らだが、それでもその時間軸を同時に存在させることは出来ない。時間は縦につらなり、同じ確率時空の世界線の中では、それが平行になることはない。
本棚には一つ大きな違和感がある。成功
それは、黄色以外の各段に一冊分の隙間があることである。
それぞれ対応したスキマに同じ色の本を入れて行くと【イベントA】発生。
屋根裏へと行けるようになる。
気づかなければ誘導を入れても構わない。<アイデア、博物学>で家の構造(見た目の割に天井が低いなど)を伝えるなど。
ごく普通の木の扉には、ドアノブがついている。
扉は普通に開きそうだ。
あけてみると、そこは小さな真四角の部屋で、いってしまえば普通の水洗トイレである。
トイレットペーパーなども完備してある。
ごく普通のトイレ。流すことも可能。
最後の本を入れると、かちりとスイッチのような音がした。
そして、がしゃん、と何かが作動したのに気づく。
そちらを見れば、机の傍、四隅の不自然に空いた場所に天井から梯子が下りてきたのに気づくだろう。
これまた木製だ。
どうやら屋根裏部屋があるらしい。
屋根裏部屋でイス人の望みをかなえるまで、探索者は家から出ることは出来ない。