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アルジャーノンに花束を ※ネタバレあり
#読書の話

閃光のように読み終わってしまった……


読みながら漠然と感じていた恐怖が最後の方に決壊して涙となって溢れた。感動ではなく、恐怖あるいは哀しみといった感情だった。

凝縮された人生。成長と老い。それがもたらす全て。
チャーリイは確かに救われたのかもしれない。頭が一時でも良くなったことは、彼にとっても、周囲の人にとっても、良かったのかもしれない。それでも、頭が良くなるにつれて失われた幼いチャーリイは確かに一度死んだし、賢いチャーリイもあの時に死んだ。そうとしか思えず、私は悲しくなった。
確かに彼らは一人であるのに、同じチャーリイなのに、知能が違うと言うだけで別人のようになってしまう。あの窓から覗くような……という表現はとても良かった。同時に、怖かった。泣いた理由の一つには、知能とはなんだ?という漠然とした恐怖も含まれている。確かに知性は人間の偉大な能力の一つであり、感情や細かい機微を知るには、知性がなければ話にならない。だが、きっと生きる上ではそこまで重要ではないのだ。それは、人間に限らず言えることである。

私が読みながら恐怖していたのは、なんとなくこの結末が見えていたからだ。分かりやすいハッピーエンドにはならないことも、偉大な研究が偉大な研究のまま終わらないことも。だからこそ、それが形になってしまった最後に泣いてしまったし、それを表現する構成力、翻訳力に脱帽してしまった。

名前だけは知っている名作。それが、今しっかり実感を伴って名作と言える。チャーリイの人生に幸ありますように。

追記:そして、他の人間が相手の知能によって、差によって、態度や意見を変えてしまうことも、先入観や偏見を含んだ目で見てしまうことも、ささやかな差異が相手に恐怖や違和を与えてしまうことも、皆よく知っているはずだ。普通であるということがいかに大変か。知性を持って生きるとはなんと難しいことなんだろう……畳む